吾輩

吾輩
かつて、吾輩は猫であった
その当時を今振り返ってみると
なかなかいい身分だったように思える
あの家の主人は
どうしようもない人間だったが、
いずれにしても
吾輩を住まわせてくれていた
今、吾輩は何者なのか
吾輩の足もとからは、
風が舞い、
その風は吾輩を恍惚へと誘う
動作というものが
自由意思によるもののみを
指すのだとすれば
今の吾輩に動くことはかなわない
吾輩には、
吾輩が今現在どのような
姿かたちをしているか分からない。
おそらく今の吾輩は目を失っている。
吾輩は何色か判然としない
モノトーンの中にいる
あのきらきらとした世界を
手に入れることは
もう叶わないのかもしれない
吾輩にできることは
風に身を任せることと、
声をあげ、一生懸命に、
鳴くことだけの様である。
その声も以前同様とはいかない。
幾分か細くなってしまったようだ。
けれども、
今の吾輩に与えられたものに
文句を言っていてもしょうがない
吾輩は吾輩の出来ること、
風に身を任せ、声をあげていくことを
懸命にやっていくしかないのだ。
吾輩はそう思う。
・・・ほら、風が来た。
チリリーン。

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