白夜

光がみえるような
歌を歌えば
夜であっても
曇っていても
いまここには
光が溢れている
やせ細った大地の上で
ひたすら歩き続けて
歩き疲れていても
心のなかにある
自分が持っている光を
信じることが出来れば
そこはあたたかい
嵐の中で
ずぶぬれになって
大切な人と子供達を
守るものがない
そう思えるときも、
光がみえるように
光が包むように
そう願い続けることが出来れば
大切な人の心は
守ることが出来る
暗くじめっとした
苦しい環境でも
いまここにある
光に目をつぶらずに
暖められている自分に
気づくことが出来たなら
朝も昼も夜も
どんなひどい境遇でも
己を愛してくれる人
己が愛する人のことを
気にかけながら
生きていくことが出来る
そういう
心の中の白夜を
みいだすことが出来るなら
未来へと
いつでも、
いつまでも
歩き続けていける

ひと思案

生き物は勝手に
死んでいってしまうから
大切にするものが
多いだけ損でしょう?
そう言いながら
微笑む人の周りには
色んな人が
集まっている
縁は
自分勝手に生まれて
自分勝手に失われていく
縁側に身を投げ出して
夜風にさらしながら
失われたものを思い返して
新しく生まれるものの
嬉しさを思う
始末のつけられない
どうしようもないことが
案外楽しいのは
難儀なことだ

のらりくらりと
暮らして生きる
そういう風に
生きられれば簡単
でも実際は
大切な人達が居て
そうはさせない
色々なものを捨てて
歩くことも
出来るけど
待たせておくことも
出来るけど
大切な人達は
いつ居なくなるか分からない
そんなことになっては
悲しいし、大変
笑いあうこと
けんかすること
何の彩りもない
怠慢な日常の所作
そういう断片を
集めてしまっていく
そういうことを全部含めて
一続きの拍動は
きっとひとつの
興なのでしょう

海風

葉の隙間からみえるのは
黒に塗りつぶされた
美しい瓦屋根
書院の天井は
どこまでも続いていく
青空
己の知らぬ間に
時間は過ぎて
いつしか歳は
周りの人に
追い抜かされ
妹は姉へ
弟は兄へ
小さく手をつないでいた
幼い人達は
今では私に道を示してくれる
長老達の寄り合いで
話し合われた事柄は
仕方ないと言いながら
収奪を肯んずる
ほしが落ちて
空がゆがんだ後の
魚の逆立ち
けれども
そっと息を吐けば
乾いた浜辺に
波が押し寄せ
島の輪郭を
優しくにじませる
なじんだ手の感覚は
大きくなって
生命をつくる
その子らの居心地に
確かに含まれていて
波は静かにもう一度
打ち寄せていく

それ

うたで人は救われぬ
言葉で人は救われぬ
法で人は救われぬ
もので人は救われぬ
何かを求めて
さまよい歩く人は
自分がさまよっていることを知らぬ
道ばたに
そっと佇む
柔和な地蔵菩薩は
この世の中に潜む
全ての苦しみを
取り除くため
東奔西走する
人の温かさが届いた時
形の内側にある
無形であって
無音のあたたかさが
心の内奥に届いた時
「それ」を理解した時
心は救われて
生き続けていく

愛着

ここにこうして
立っていると
体を通り抜けていく
風の音も
光の波も
きれいな鳥達の話し声も
これこそがこの世の真実に思えてくる
そういう気持ちの後に
そういったものが去っていて
残された無音と無明にふれると

感じられるもの
感じていること
そういうものは全て偽物に思えてくる
だから
本物の世界をもっと感じるため
一歩を踏み出し
どこまでも歩いていく
そういうつもりで
どんどんと
歩いて
うんうんと
歩いていると
いつしか年を取り
昔なじんだ友人達とは
冗談が通じなくなり、
故郷と呼んだところには
見知らぬ人達が
生きていた
そういうものをみて
悲しくなって
身につけていた
ぼろぼろのマントに
顔を埋める
知らない人に笑顔を見せながら
誰にも気づかれずに
心の中で泣く
その涙の理由は
己のほかには
過去の思い出に生きる人達にしか
分からない
そういう悲しさで
一昼夜を過ごした後に
そっと起きて
石畳の路地裏で
見知らぬ人達が
今日も生きていく営みを
準備していた
それをみた時に気づいたのは
私は
辺境に立っているのだということ
どこまで歩いても
何かを求めても
私がいる場所は
常に
辺境なのだということ
本物はいつもここにあって
いつも中途半端なのだということ
そういうことに気づいた私は
地面をける
足音に
誰かと交わす
おしゃべりに
きゅっとしまった野菜の手触りに
自分が
愛着を抱いていることを知った

おぎなう

出来上がったと思っていたのに
ふとした出来事で
揺るがされる
心の中にある
脆弱な部分は
いつまでたっても消えぬ
きっとそれは
いつまでたっても消えぬのだろう
ひとつをとれば
他はとれぬ
だから
私達はおぎないあうのだろう
気に食わないことや
理解出来ないこと
共感出来ないことがあっても
そういうところがあるから
一緒に歩いていく
一つの体をつくる
もしも、
不愉快なものを全部取り除けば
残るのはひとりぼっちの自分ではなく
誰もいない場所
どうして
私は私なのか
特化したものと脆弱なもの
それらが
たくさん集まって
私をおぎなう

乾燥した街の
丘の上にある寺院
空はいつもより
遠くて青い
観光客は集まる鳩に
餌をあげて
建物の写真を撮る
そういう雑踏の間を
すり抜ける様にして
寺の入り口までくる
自分は何のためにここに来たのか
自分はどうしてここにいるのか
そういうことへの問いの答えが
異国のおもむきの中に
ありそうな気がして
一歩を踏み出す
日本と同じような
けれどももう少し
優しくて弱い顔の
仏様に対して
祈りを捧げる人々
鐘にふれて
ぐるぐると
寺の中を一回りすれば
祈りはそれで終わり
目を閉じている人々
慈しみを感じる人々
国籍や言語は異なるけれども
祈りの存在
祈りは人にとって
原始的なものだということ
そんなことを
教えてもらう旅

お守り

大切な夜を
脅かすような事を
みたり
きいたりしたときに
ああ怖いなあと思って
うつむいてしまえば
踏みしめる地面には
曇り空
嫌なものをみた時に
食べられない様に
支配されない様に
大切な人の事を想う
今日、そしてまた明日、
大切な人と
生きていくために
祈りながら眠りにつく
安定な構造がもつ
不安定さを垣間みた時
なんとか世界を
押しとどめるために
今日もみんなが生きていける様に
明日もみんなが生きていけます様に
そういって祈りながら
歩を進めていく事が
その人自身の
そして、
そういう人の周りに居る人にとっての
お守りになる
そういう目に見えない
沢山のお守りを
大切にしながら
歩を進めていく

やさしさ

何かが足りないなあと
自分の周りを見渡してみても
何が必要なのか分からない
面白そうもの
楽しそうなもの
きらきらしたもの
ときめきそうなもの
そういったものを
探していって
触れたり嗅いだりしても
結局
元の木阿弥
いつしか時は過ぎ
周りの人たちは
知らぬ間に
その人それぞれの
幸せを手に入れていた
一番それを求めていたのは
自分のはずだったのに
それを手に入れていない自分は
少数派になってしまった
幸せを探す旅を
あんなに真剣にやっていた
自分だったというのに
あーあと思って
何気なく自分の手をみると
知らぬ間に爪は伸びて
手のはりは無くなっていた
鏡をみると
小さな頃に毛嫌いしていた
みじめな大人の姿が
そこにはあった
ライオンは訝しがる
なぜそれに気づかないのかな
カエルはうなずく
前ばかりみているからだよ
はくちょうは諌めて
頑張っていたのだけれどねえ
木々は笑って
くすくす
そういう声を聞いて
その人は
くるりと回って
あーあ、嫌になっちゃうなあ
と言いながら
ぱたりと倒れ込んだ
倒れ込んだ
その人の目の前にあったのは
幾千の星と
夜の静かな優しさでした