竜と土砂降りあるいは死

もしも今
高いビルから落ちる途中で
もうすぐ地面に激突し
体がぐちゃぐちゃになると
分かっているとしても
そのいずれやってくる死に
怯えずに
愛を知らない子に
愛を伝える事が出来るか
もしも今
道をいく車の音が
聞こえぬほどの
雨が降る中
傘を持たずに
僅かなスペースを利用して
雨がやむのを待っているとして
雨に濡れる事を
露ほども気にかけず
貴方に会いにいけるか
もしも今
誰かに愛を伝えるにあたって
その人が自分をばらばらにし
断片を弄び
それらを爆死させようとしているとしても
己の中に存在する
愛や救いたいという気持ちを
みつめる事が出来るか
外は晴れ
心は土砂降り
己の存在は
今にも消えそうなほど
弱々しく小さく
雨の音や地面に叩き付けられる恐怖
相手に殺される恐怖をみれば
心に眠る
大切な気持ちは
みえなくなるが
そういう怖れを一度忘れれば
確かにそこに
愛したい、
救いたいという気持ちが
体を充たしている事に気付く
その気持ちの在処を
見つける事が出来れば
心に眠る竜に
出会える事が出来たなら
傷ついていて
横たわっていた小さな竜は
また、大空を飛べる様になる
それはつまり
もう地面に叩き付けられないし、
雨もはらす事が出来るし、
何にも負けない力を
持つという事だ

だらしなさと愛おしさ

かっこつけていないで
そのもっさりした体をみせて
だらしないこしまわり
手入れの行き届いていない毛髪
それらを全部投げ出して
恥ずかしがって
そして抱かれればいい
反抗的な言葉
いやがる素振りをみせながら
そして抱かれればいい
そのだらしなさも
抱きしめるから

偶数月のキツツキは

偶数月のキツツキ
コツコツカツンと
幹を打ち抜く
奇数月のキツツキ
カツカツコツンと
幹を打ち抜く
夜に寄り添う
ほうほうフクロウ
訳知り顔の顔をのぞかせ
新月の森に
真っ白な風を感じる
森を探検しにきた
人間達は
ピカピカピカと
ライトを照らして
おしゃべりしながら
通り過ぎてく
静かな森の
賑やかな闇に
気付く事なく

生活が壊れるという事

恐れや不安
妬みや衝動的な欲求
それらに捕われた人は
二度と戻らない時間のたゆたいを
それらに突き動かされて
生きていく
その情熱は真実のものか
熱情の衣を纏った
怖れの影ではないのか
昔に傷ついて泣いた
子供時代の自分ではないのか
怖れや涙は自身を救わない
それらは内面に潜む獰猛な獣となって、
我々の時刻を進める
そうした人は
この世に生まれる事無く
死んでいく
我々は怖れ、
涙を流し、
怒りに我を忘れる自分を
温かなぬくもりを持って
抱きしめなければならない
そうして
魂が思いっきり泣いた後に
泣きつかれてぐっすり眠った後に
漸く
自分の感覚で
世界を捉えられる様になって、
生活を造っていく

静かなオルガン弾き

晴れの日も
雨の日も
風の日も
闇の日も
彼は一言も語らず
そっとオルガンを弾く
誰も立ち止まることも
彼の存在に気付くこともなく
そういう彼は
この世界で一番の幸せ者に
違いない
誰にも気付かれずに
今日もオルガンを弾く

愛と怖れ

愛する事は恐い事
隣に並んで歩いた時に
自分に不釣り合いな
立派なあなたの姿を見てしまうから
世間の視線におびえる私を
あなたは守ってくれるという
私のプライドを傷つけない様に
注意しながら
けれどもその優しさで
ますますどぎまぎしてしまう
でも、そういう事を差し引いても
あなたのそばに居たいと思う
内面のちくちくしたものと
チクタクと歩きながら
あなたとともに歩きたい
そしていつの日にか
何の違和感を覚える事もなく
そっと手をとりたいのです

たったひとつ

たったひとつあればいい
己が着飾るものは
たったひとつあればいい
素足を守る丈夫な靴は
たったひとつあればいい
心の内奥にみずみずしさを
よみがえらせる大切な娯楽は
たったひとつあればいい
自分を打ち込める何か
たったひとつあればいい
自分と共に歩く何か
たったひとつあればいい
命をかけて守るに値する何か
たったひとつあればいい
大切なものを守れる強さ
たったひとつあればいい
いくつも望んでいたのでは
結局どれも手に出来ないのだから
人の腕は二本しか無い
大切な人、大切な家族を
十分に抱きしめる事で
両手はいっぱいだ。

空間と共有

二人の間にある
静かな物や騒々しいもの
二人の間をふわっと、
時にはちくっと
埋めてくれるクッションみたいなもの
でもたまにはクッションをはずしたい
何も無いこの空間で
あなたとの距離を縮めて
あなたに接する事が出来たなら
物も風も光も音もを
ろうそくの火を消す様にふわっと消して
この空間を二人分の存在で満たしたいのです
そうすれば今度は
空っぽだったこの部屋に
無機質な配列が占拠したとしても
私たち二人が
視線の交わし方を忘れてしまった時にも
ふとしたきっかけで
私たちの彩りが元に戻りうる様に
なると思うのです。
だから・・・
ふうー。

山々がカラフルに染まって
あかるい日ざしは
水面を輝かせる
一度に飲みほす事の
出来ぬ水流も
偶然橋を行きかう
人の群れも
静かな暗闇を大空へと
持ち上げるのも
澄んだ音を歌う
一粒の風でした

いつかの物語
一人の男と
一人の女と
装飾音符は無いけれど
心はいつも一緒
羽飾りも無いけれど
思いはいつも一緒
互いが互いを気遣う
生まれたときは
別々の場所だったけど
死ぬときは一緒
片割れが死んだ後も
寄り添い続ける
二人にとってはむしろ
死した後に初めて
落ち着いて
向かい合えたのかも知れない
死した後に初めて
寄り添うのかも知れない