anchor

夜月が映る海
会合にそっと
錨を下ろす
白い砂の砂漠
巻貝の殻を
見つけたら
心の奥にある
隠した想いを
吹き込む
白色雑音に紛れた日常を
乗り越える
暖色で縁取られた
所作が流されない様に
触れることの出来る温もりの
宛名を記して
錨を下ろす

red

毛むくじゃらが
寄りかかって
深く息を吐く
ふーっ
赤に溺れた私は
ワインレッド
もしくはワインレッドの毛に顔を埋める
交換可能なものから
交換不可能なものへ
誰も居ない島で
一人、波の音を聴く
流転する魔王なるものの横を通り過ぎて
がちゃがちゃと音のなる箱の中味を覗き込む
殻が割れて
傘下の教義が水に浸る
逆さまになった月の下で
お月見をして
後で還る

展覧会

ほっぺにキスして
カランコロン
円周を縁取って
屋上の池に飛びこめば
雲の温度が
体にしみこむ
目を開けたままにして
でも口は閉じていて
貴方の思惑が
転がっていった金貨を
踏みつぶさないように
二人の会話の間を
目配せと息づかいで
満たしたら
深く深く
存在を満たして
非存在するものの息づかいに注意する
高く飛んで
雲の上でふざけあったら
ほっぺたでキスを
柔和な竜が
架かる輝きを絵画に描いたら
展覧会の幕が開く会場の隅に住む
猫の家族の毛繕いする姿をみて
「あ、猫だ」と一言と木々の葉の音
愛の有りうる場所で一番安堵できる場所で
野菜スープをことこと煮込んだら
ぽこぽこと泡にゆられて
あまりにくらくらしたので
駱駝に乗ったら
体が楽だ

水面

静かな夜
三日月は雲をまとう
穏やかな季節の
心地よい風は
私を包み込む
昼間の喧噪で舞い上がった
澱が沈み
優しい水面の側に座って
針も竿もなく
釣り竿を
垂らす
浮き上がって
空に向かう言葉は
一つずつになる
一瞬
風が冷たくなり
波が立つと
整然さを失った言葉達が
めいめいに踊りだし
収拾がつかなくなるが
そっと目を閉じ
息をつけば
魚籠に魚が入る

名前を呼べる幸せ

こっちに来てほしいから
名前を呼ぶ
名前を呼べる
当たり前の日々
嬉しいことや
楽しいこと
腹が立つことや
我慢ならないこと
いろんなことをひっかけながら
名前を呼ぶ
おあとはよろしくなくて
誰にも変えることは出来ない
関係性の絆
一生懸命に
名前を呼ぶ

手つなぎ

体が固まって動けない
崇高な事も
ポジティブな事も
鈍い歯をゆっくりと動かすから
骨を左右して
余裕がない
汗と体臭にまみれて
貶められた自尊心は
阿鼻
芽を出した二葉は
倒れた人の
顔の高さにあって
ようようと陽の光を浴びる
色が混乱して
青色の四角が顔にぶつかって
痛い
のばした手の先に
枯木は
仲間外れの世界で
閉じ込められる
夜の時間が訪れる
その時に
半周回った命が
是のガラスを割って
生きることの火を連れ戻す
痛みへの呪詛や
切り裂くような環境音が聞こえなくなって
目を開けると
どこか疲れた
みなれた人との
手つなぎ

せめてきれいごとを

せめてきれいごとを
瓦礫に埋もれた街の
いつしか忘れた子守唄
声の届かぬ井戸に
おいていかれた
子供の烏帽子は
水に濡れ落つ
葉っぱの妖艶
連れていかれた
あの子のお手を
掴み損ねた悔いもない
以前と変わらぬ装いの
他人の音頭
当てにならない
天気の夕方
絶望せぬよう
あるいは
果たせぬ雨に打たれて
生きるため
せめてきれいごとを