ごうごう

ごうごうとした音がなくなって
耳が休まると
かき消されていたものが
あらわれる
大切なもの
本当にかけがえのないものは
簡単に隠されて
心を不安に
所在をなくしてしまう
探すべきものは
みつかっていて
余計なものが
重なってみえなくなった
レンガの路で
モノクロな写真に
好奇心と恥ずかしさの
混ざった顔で座っている
やんちゃな二人

グラス

近づいたり離れたり
触れる思いは今一瞬
手に触れてみても
みつめかえしてみても
寄る辺に
よせてかえす波は
蟹をこそこそ泳がす
ムードが変わって
真剣な気配になって
ある今は今
急ごしらえで作った間に合わせと
持ち寄って作った思いやりと
グラスは満たされて
かわりばんこのなぞなぞが
深く深く
今に刻まれる
作り替えられ続ける話題に
透き通った乾杯の音が
cymbalsになって
確かに始まった
長く大切な昔語りの
横顔を撫でる

花束

どういうことで
あっても
雪は溶けて
風が吹く
新しい芽は
生まれいづる
もしも今
誰かのために
酸に両手を浸すなら
私の腕も抛とう
知らぬ間に
針を呑むなら
代理しよう
揺れ動き続ける
発電機とファンの音が
耳朶を裂くなら
私も一緒に
雨宿りをしよう
望まれない働きも
素直な花束
海の鮭

交換できないこと
訪れた人の記憶
交わした言葉
時折の衝突
喜びと温かさ
いつか
もうすぐ死ぬ
それは誰も変わらない
けれど
それが一層
光を注ぐ
いくつになっても
種をまき続けること
明日へと枝を伸ばすこと
一周まわった
楓の葉は
意識のひとつで
元通り

étude

前に進んで
砂塵は
喉を突き抜け
双葉は遠い未来の
黒髪に
風が舞う
今一瞬を通り過ぐ
揺れ動く人の étude
飛び乗った列車は
反対方向で
重なりあったのは
急ぎすぎ
雲もまた
円を描いて薄まっていく
切手の消印は
夏の浜辺に
手痛い失敗
訪れる線路の微分に
肩がぶつかって
食い逸れた
春夜の海

感動

お庭の花が咲いて
ギリシャ文字の
後ろみたいに
背伸びをして
一心不乱に
観察を続ける君
コンクリートを
踏んだ音が面白くて
強弱やこすった音を
喜んでいる
白い小さな生き物が
いつしか大きな
青い竜になって
いえいえを守る
心の穴は
太陽の光と繋がり
獣は物語りをする
地球の音が動いて
夜空に一首
絡まりあう軌道も森も
遠く観たほしの
感動

くだせぇ

かみさまぁ、
おいらの願いを
ひとつ
聴いてくだせぇ
頼むから
いつでも
ここにいてくだせぇ
誰もが
かみさまのことを
忘れねぇような
奇跡をおこして下せぇとは
言わないです
ただ、地獄のような
痛みや心持ちを
抱えたときに
憐れんで
頬にそっと
手を添えてくれる
そういうようなことが
ありふれている
そういうこの世に
お座りになって
いつも我々を
見守っていて
くだせぇ