ぼよん

歌を歌って
接するもの
ぼよんぼよん
うたが十分な大きさなら
境界線に
ぼよんとぶつかって
跳ね返りを確かめられる
ぼよんぼよん
境界線の存在を知れたなら
ふっと息を止めて
じゅわっと存在を溶かしてみればいい
それはおのれにとっての
喜捨であり
特赦である

戦争の扉

宙に浮いた扉をあけると
扉の向こうには空
そこへ向かって
一歩を踏み出そうか
どうしようか迷っていると
こちら側は真っ暗闇
一歩を踏み出して
真っ逆さまに落ちるのも嫌だし
一歩を踏み出さずに
暗闇に引きずり込まれるのも嫌だから
仕方が無いので
頭から扉に飛び込んだ
そうすると
私は俺に
俺は私に変化して
いつしかそこは戦場
俺あるいは私は
馬上の一兵卒で
状況を飲み込む間もなく
その変化を受け止めて
スイッチが切り替わる様に
他の兵士と同様
右手に槍を
左手に盾を持って
馬を前に駆り立てた
いくらか進むうちに
冷静になって
敵はどこにいるのかと訝しがる
そして
敵なんてものは
はじめから存在しない事に気付く
この戦争は
王様がこしらえた
架空の敵に向かって
どんどんどんと
架空の命をぶつけていくだけのものだった
そうしてふっと
目が覚めた私の頬は
涙にぬれていた。

軌跡

魂は
書いたり
泣いたり
主張したり
笑ったり
歌ったり
記録したり
歩いてみたり
走ってみたり
計算したり
運転したり
話をしてみたり
冗談を言ってみたり
考えてみたり
感じてみたり
感じさせてみたり
集めてみたり
見つめてみたり
演じてみたり
作ってみたり
なおしてみたり
戦ってみたり
守ってみたり
育ててみたり
見送ってみたり
添えてみたり
支えてみたり
誘ってみたり
誘われてみたりして
漂流する
もしもそこに
愛がないなら
それは波紋
もしもそこに
愛があるなら
いのちの軌跡

獲得と喪失

片足立ちの詩人は
海面に顔を出すクジラの上に
一休みするカモメを
海岸にちょこんとたつ家の窓辺から
望遠鏡で覗き込む
その傍らには
妻がいれた温かなコーヒー
コーヒーは香って、
いつかの記憶に似た情感が漂う
その雰囲気に気を取られると
クジラもカモメもいなくなって、
望遠鏡も手元からなくなった
一瞬の喪失感の後
片足立ちの詩人は
コーヒーを忘れた

共鳴

与えられたものをいかす
その目でみつめて
その耳できいて
その舌で味わって
その鼻でかいで
その手で触って
その足で支えて
その心で感じて
その認識で悟る
もしも誰もいなければ
美はなく
愛はなく
真はない
そこにあなたがいるから
ほかの人間も
人間以外のものも
存在する
人間以外の誰が
美を美として認めるの?
人間以外の何が
愛を愛として認めるの?
すべて、価値は人が作るもの
与えられた命が
他の命に命を与えれば
その連関は
偉大な音楽を奏でていくよ

お湯のテクスチャー

極彩色の思惟には
幾人かの相手をした後の
一人きりのシャワーで
緞帳がおりる
感慨の湧かない無作法さで
引っ掻き回された体を
お湯が癒してくれる
琥珀色の目をした
見知らぬ人は
いくらか怖かったけれども
出来るだけ他の人と変わらぬ様に
接してみると
思ったよりは怖くなく
むしろ優しい人だった
普通で裕福そうな男ほど
心のうちは
身勝手でわがままだ
ふうと息を吐いて
全身を洗い流す
そうして
気を取り直して
一日の疲れを癒すのだった

小石

線形な関係性と
ノンバーバルな思惑
先鋭すぎる観察は
寛容をすり減らしながら
時を加速させていく
マイルドな敷居は
優しく甘い
けれども
その緩やかさは
時に不自由だ
ざらざらした表面は
時が経つにつれ
つるつるした表面に変わる
つまり人はただ
転げ落ちるために産まれた
といえるだろう
そしてそれは
ほかの沢山の小石に包まれて、
そっと存在していく
という事を意味するだろう

うそぶく人

沢山の人がいて
それぞれの悲しみと喜びを持って
名も知らぬ誰かは
やはり名も知らぬ誰かと待ち合わせ
そんな光景に無関心な
その他大勢の中の一人になった
同じ電車に乗る奇遇に見合わせた
見知らぬ人は
そんな奇遇に関せず
誰かへの祈りに没頭している
目の見える範囲にある限りない選択肢は
夢のまた夢のまま
一駅を通り過ぎるごとに
さやさやと通り過ぎていく
それぞれの人にその人の幸せ
それぞれの人にその人の悲しさ
それらをすべて分かち合うのは不可能なのだけれど
それらにすべて気付くことは難しいのだけれど
見知らぬ人
名も知らぬ誰かが
己と同様に
形式は様々かもしれぬが、
色んな幸せや悲しさを感じていると慮る
そうしてガタガタと揺れる電車の中で
存ることの力強さを感じる一人
それは我がままな妄想かも知れないし、
深いところにある連関なのかも知れない
最も伝えたいのは、
その描写とうそぶく人の存在である

色んな狼

お腹のすいた狼
お腹いっぱいの狼
お裾分けする狼
独り占めする狼
恋いこがれる狼
恋にやぶれた狼
空を飛びたい狼
崖から飛びたい狼
何かを突き抜けたい狼
何かにぶつかりたい狼
どこかに進みたい狼
どこかへ戻りたい狼
最高な狼
最悪な狼
独唱する狼
合唱する狼
皆を率いる狼
誰かについてく狼
思惟する狼
全然悩まない狼
怒り狂う狼
怒り疲れた狼
腹の底から笑う狼
つられて笑う狼
泣いちゃう狼
涙を隠す狼 
嘘つく狼
嘘つけない狼
人間好きな狼
人間嫌いな狼
人間みたいな狼

繕いと移ろい

繕いと移ろい
繕い留め
繕い移う
留まるのは何か
移ろうのは何か
残火は影
讃歌は炎
彼方此方で変わって
走る釜に
焼かれたピザは
美味しいけど
寂しい善意がある限り
それは
乾いた風と
暖かな冬の日差しだったり、
忘れ去られた場所で
何かを訴え続ける
ミケランジェロだったり、
いつの日もカチカチと
痩せこけた腕の上で
無関心に時を刻み続ける
大切な腕時計だったりする。
けれどもだからといって
琥珀になるのは
不可能だ
毎日、カチカチと
心臓を燃やし続ける