転写

崖に腰掛けて砂漠を眺めると
オアシスが点在していることが分かるし、
大きな川も流れていることも分かる
でもそこに住むトカゲは
暑さを踊り続ける
観る人が瞬きして
シャッターを切る
開くと
様々な色の反物
手を伸ばせば
袋の底を突き抜けるよう
暗闇の底を破って
澄んだ青空
誰かが送ってくれた手紙
何日か後に届くとき
固化した想いの香り
語ることに飽きない場所と
隅っこの廉潔

暖炉

雪かきする人に
温かな肉まんを
コーヒーも添えて
散歩が本当に
楽しいという様子で
飼い主と雪路を進む
ミニチュアダックス
多くの人が動き出す頃に
仕事を済ませて
家路へ帰る人には温泉
皆が帰った後に
疲れて漸く帰る人には
フカフカのベッドと
もふもふした同居人
にゃーん

澄む

澄んだ場所で
煎れたお茶を
水筒に入れて
街中へ持っていく
疲れた時や
苦しい時、
濁ってしまったなと感じる時に
コップに注いで
それを呑む
そういうものが
いくつあるか
そういう人が
何人いるか
執着に覆われて
人の入る隙間がない時に
ふっと入ることの出来る
スペースをいくつ知っているか
ねじまきをして
規則正しく動いていくように
音が鳴るように
それで疲れてしまったなら
いつもと違う浮島へ
もしくはその間隙に避難して
嵐の後の濁流が
いつしか
元に戻るよう
静かに
待っていればいい

拓く

平和な場所や
優しい場所が
何処にでも
誰にでも
ありますようにと
祈って進む
その道は
遠い昔に
人里離れたところへ深く入り
山を開いた
誰かのように
物理的に
そこに住むのは難しいと
思われていた
その場所に
誰かが分け入り
住んで都を作ったように
心理的に
そこに住むのは難しいと
思われていた
もしくはそこに
人間を見出せるとは
誰も思わなかった
その場所に
怒らず
愚痴らず
憎まず
腐らず
蔑まずに
辱められず
ただ立ち続けている人がいるならば
そういう人は
山を開いたかつての”人”と
似ているところが
あるだろう

作り話

咳が止まらない
こほんこほん
痛い節々
ぎしぎし
内容のない日々
ずしりずしり
人のうたを聴いて
空っぽの胸の内に
借りものの情熱を灯す夜
じんじん
自己規定と否定を
行ったり来たりで
何か仕事をしているような気持ち
くるりくるり
憧れている太陽が
目の前にあると感じる苛立たしさ
むかむか
届いてほしい思いと
真実を保留したいなと思う甘さ
ぐつぐつ
どういう言葉を括れば
予定調和が崩れ落ちるのだろう
同じような間
同じような語彙
すごく窮屈なローカルルールで
成り立っている会話を
延々と聞くうちに
そこから、
感情とか印象とかが抜け落ちて
心の込められたプログラムで
成り立っている
人形同士の会話を聞いているような気持ちになって
景色は遠くなり
くぼみに落ちているような感覚
自分の乗った電車が通り過ぎる
がたんごとん

パターン

心臓の拍動が
オレンジ色の波紋をつくる
その縁はどうなっているんだろう
テーブルクロスがすらっと
垂れ下がっているところに沿って
波は落ちていく
マイルポストが定点観測している
まっすぐ伸びたありふれた道に
進むでもなく
躊躇うでもなく
今まさに立っている
舞い込んできた音符も
自分の手の中で回すだけなら
枯れていって
むしろ
身近な人の喜びに繋がるような手段で
活かす
波を重ねて、
パターンをつくる

注ぐ

何か大事なことを
忘れていないだろうかと
折にふれ
問いかける
硝子細工に太陽を透かした時の
柔らかな光
愛嬌たっぷりの顔で
ボールをヘディングする
アシカの群れ
容器に注いだ意識を
新しい金型に注ぐ
固化
気になること
腹立たしいこと
怒れること
嘆かわしいこと
寂しいこと
容器に注いだ意識を
ワイングラス
あるいは
部屋いっぱいにこぼして
いっそ世界から
溢れ出してしまうように
注ぐ

Quartet

咳をして
呼吸を整えるとき
頼りない笛がなるような音を聴く
力強く立っていた片足立ちの人も
どういうわけか
膝の上まで
夜の池の水面が浸っている
彼の人は
けれども諦めていなくて
以前よりも深く
光を捉えた眼をしている
人を在らしめているのは
繰り返されつつ
日々更新されつつあるもの、
あるいは
都合に応じて
文脈を取り替えられたものでもなくて、
行為の履歴
そういったところに本質があるように思う
虚偽もなく
不信もない
有りさま

素描

まだ出会ったことのないあなたと
毎日少しずつ言葉を交わして
親しさを深める
実際に顔をあわせるまでは
足りないピースがあるような気もするのに
間とか言葉の選び方で
ぴたっときているような気にもなっている
他の人にはない
その人だけの魅力
ひょっとして
自分にだけ、
少なくとも限られた人にだけ、
分かるんじゃないかというような魅力
雪の上を歩く日々の背中を
軽くするような魅力
不思議な気持ちと
ラッキーな気持ちと
手放したくないような気持ちと
ひょっとして勘違いなんじゃないかというような気持ちと
明日に向かうための理由を問うことの
必要性を減らしてくれること
自分のことを考える時間が
減っていく幸せを感じさせてくれること
巧妙な罠に嵌って
抜け出せなくなるような
世界が閉じていって
でも、
深まっていくようなこと

準備

生きる力を感じてもらうため
誰かの支えになるため
そういう願望もわずかにあるけれど
そう、少しだけ
ただ此処にある世界を
観ている、
観られている世界が
今、あるということを示す
世界が産まれて
世界が還って
そういうことの先に
何があるのかはわからないけれど
何かがないといけないとも思わないけれど
いつから言葉は詩になるのだろうか
ビーズをくぐり抜けた糸が
最後に結ばれるようにだろうか?
それとも個々別々の音達が
音楽として扱われるように?
あるいは
いつでも言葉は詩で、
観る人、語る人の思い次第?
気持ちの準備
詩を書くように
息をして
息をするように
詩を書いて